男性カップルが周囲と関わりながら生き方を模索する映画「his」が、1月24日(金)から全国の劇場で公開される。
監修はなんもり法律事務所(大阪市北区)の弁護士、南和行さん(43)。南さんは自身が同性愛者であることを公表しており、「近年、男性同士の恋愛を題材にした作品は多い。だが、どこかファンタジー的要素が強かったので、今作ではあえて、私たちの仲間が社会で直面する課題に関心を持ってもらえるようにリアリティーを追求した」と語る。
監督は、角田光代原作の映画「愛がなんだ」などを手がけ、”恋愛映画の旗手”と呼ばれる今泉力哉。主人公・井川迅(宮沢氷魚)はゲイであることを隠すため、田舎に移住してひっそりと暮らしていた。ある日、8年前に突然別れを告げて去ったかつての恋人、日比野渚(藤原季節)が、妻との間の6歳の娘を連れて彼のもとを訪れる。そして、3人の奇妙な共同生活が始まり…。
2017年、脚本家のアサダアツシから「LGBTQ(性的少数者)をテーマにした映画を作りたい」との相談があり、南さんの作品との関わりが始まった。「パートナーと一緒に運営している法律事務所の仕事や、私たちの日常を撮影したドキュメンタリー映画『愛と法』を東京国際映画祭で見て、声をかけてくださいました」
翌年、脚本の下書きが届き、法律や裁判の手続きなどを助言。登場人物の性格や行動が自然かどうかもチェックした。「迅くんは達観していて、何事もすぐにあきらめてしまう性格が印象的。彼のように『同性愛者である』ということで自分自身を過剰に制約している方は多く、その気持ちはとても共感できた」
南さんは現在までに数多くの離婚裁判を担当。その経験を生かし、渚が妻と親権を争う法廷シーンでは専門用語の説明だけでなく、弁護士や裁判官の目線や振る舞いなども細かくアドバイスした。
「裁判の現場にいると、ふとした言葉に同性愛に対する偏見を感じることがある。いまだに社会にはそうした差別意識が存在していて、戸田恵子さんや堀部圭亮さんといったベテランがその姿を巧みに表現してくれた」
男性カップルの葛藤に焦点を当てつつ、広く一般が直面する社会の“いま”も問う本作。「渚の妻・玲奈が抱えるシングルマザーの問題、田舎と都会の関係性など、現代社会が持つ多様な姿を映している。観客の誰もが、登場人物たちに自分と重なる部分を発見できるはず」と力を込めた。
「his」は1月24日(金)からシネ・リーブル梅田ほか全国にてロードショー。